「メンタリング・バイブルの名称に相応しいものがないか?」、「これを見ればメンタリングのことがす
べてわかる手引き書がないか?」とのお客さまの強い希望により、本バイブルの制作を2004年に開始し
ました。このバイブルとう名前をお客様から頂いたお陰で、その名前に恥じない内容にしようとの意識も
強く働きました。
日本では、その当時、メンタリングと言えば、新入社員の離職率低下の対策用として、認知されだし
ましたが、果たしてそれだけなのかとの疑問に答えるため、長年にわたる欧米のメンタリング学会への参
加や実地調査、インターネットからの情報等を総合的に分析し、日本で多くのメンタリング事例を指導・
支援した経験をもとに制作されたのが、このメンタリング・バイブルです。2005年1月に初版が発行さ
れ、早くも5年。世界のメンタリング事情は、進化を遂げました。筆者が、既にメンタリングの調査を開
始してから、早くも10年がたとうとしています。その間、米国の国際メンタリング学会IMAでは、通
算5回、メンタリングの成果発表を英語で行い、更には、欧州メンタリング&コーチング協議会EMC
Cまで出向き、我々のメンタリング事例を紹介しました。お陰さまで、アジアで最多の成果発表の実績を
誇る「メンタリングの達人」と言われるようになりました。
第3版の発行後も、全米人材開発協会ASTDのような欧米の人材開発関連の専門家集団の年次総会の
多くで、メンターやメンタリングの重要性を称える声を数多く聞く機会が増えました。例えば、ASTD
2007年次総会では、ビジョナリー・カンパニーの著者、ジム・コリンズが、基調講演を行い、自分の
メンターは、ドラッカーだとの話しから始まり、メンタリングは偉大だとのメッセージ、メンターに喜ん
で支援する気持ちにさせるテクニックを紹介したキース・フェラッジや、リーダーシップで効果を発揮す
るには、メンタリングが欠かせないとの話しがギャラップ社の方から飛び出したりして、メンタリングの
再認識が進みました。その後も、成功者が基調講演をする際には、自分のメンターを紹介する機会が多く
なりました。これもメンターに対する感謝の気持ちの表れとも言えます。 更には、全米人材開発協会ASTD2008年次総会で、これからの最大のテーマとして、タレント・マ
ネジメントが注目されるとの発表が、CEOのトニー・ビンガムより行われたことをキッカケに新たな進
展が見られました。もともとタレント・マネジメントは、キャリア計画との抱き合わせで発達したもので
あり、その基盤には、キャリア支援の仕組みとして、広く世界に普及したメンタリングの考え方が活用さ
れているのです。 既に2002年より、米国では「メンタリング月間」が、連邦政府や州政府により制定され、各種のメ
ンター募集のキャンペーンが繰り広げられています。この青少年の非行防止、麻薬撲滅の活動に対して、
数千にのぼるNPO団体、宗教法人が活発に活動を続けています。これらの団体のネットワーキングと情
報の蓄積を支援しているのが、National Mentoring Partnership です。但し、彼らはあくまでも民間
のNPO団体です。 フォーチュン500のトップ100企業の殆どでは、メンタリングを全社的に導入している企業が沢山
見られます。これは、グーグルの複合検索(会社名とMentoring)で簡単に確認出来ます。また、英国、
カナダ、北欧諸国、オーストラリアでも、大変熱心な団体が多く存在します。 メンタリングを推進する大学、大学院としては、ボストンのハーバード大学やボストン大学、シリコ
ンバレーのスタンフォード大学、ロサンゼルスのUCLA、更にはワシントンDCのジョージ・ワシ
ントン大学に至るまで、幅広く分布しています。特に、ハーバード大学のPublic Health(公衆衛生)
学部では、学内での普及活動に留まらず、米国全体でのメンタリング普及活動を推進し、メンタリング月
間を連邦政府に提言し、実現した影の立役者になっています。 尚、ハーバード大学のメンタリング・プロジェクトのディレクターに、直接取材する機会を得て、その
インタビュー結果を報告として含めております。 ニューヨークのマンハッタンで発生した同時多発テロを機会に、ニューヨーク市警では、組織の抜本
的な改革に乗り出し、重点地域に対し、徹底した自警組織づくりに乗り出しました。その中で、一番効果
を発揮したのは、メンターによるメンタリング・プログラムの導入です。この成功事例が、国際メンタ
リング学会IMAでも発表され、評判になりました。 今回の第4版では、次の点を配慮しました。@過去の良い所は残し、最新のメンタリング情報を取り入
れ、全体を再構成しました。A図、チャートは、最新版に入れ替わりました。B最新のメンタリング事例
(ハーバード大学、ジョージ・ワシントン大学の事例他)の追加、C研修効果測定事例、フォーム等が最
新版となっております。
D今後のトレンドとして、タレント・マネジメントの概要を紹介しました。これにより、実務書として
の価値が一層高まり、人材育成の手引書として現場で使える情報が更に盛り込まれています。これを活用
することで、会社の実務者が、メンタリングの導入を早く始められるような色々な配慮がなされていま
す。
ノルマ達成の締め付けが厳しくなった企業では、落ちこぼれる人材が増加し、社員の意欲の低下をきた
し、身体的疾患にいたるケースが急増しています。この流れを根本的に転換するには、職場でのやりがい
を高める活動が必要になります。評価の視点としてノルマ達成ではなく、CS活動に切り替えたり、個人
のキャリア支援を中心とした活動を強化することで、成果を出す企業も既に出始めています。経済産業省
の独立行政法人IPA(情報処理推進機構)は、この流れに基づいた日本版キャリア評価システムとし
てITスキル標準(ITSS)の導入を推進しています。このITSSを実現するには、メンターの役
割も今見直されており、第4版では、このITSS関連情報を参考までに追加しました。 本メンタリング・バイブルを企業における人材育成の手引書として、コーチングとメンタリングの違い
やその使い分けを学びたい方にはうってつけであり、本書を活用して、組織の活性化を進め、その結果と
して、企業の継続的発展の基盤を構築されることを期待しております。 |